コラム147 劇的に乗揚げを防止する方法

 図3は平成12年の海上保安白書から採った要救助海難統計である。データは古いが
種類別海難発生の傾向を知る程度のことなら使用して差し支えないだろう。
 見てのとおり、乗揚げが最多で、次に機関損傷で、衝突は第三位である。
 乗揚げというのは、例外を除き相手が地球だから、船舶側の一方的な責任であり、地
球には求償できず、損害保険各社が原因を徹底的に究明することは殆どない。
 船舶所有者側も「本来なら船長や当直者を集めて徹底した事故調査をやるべきであった。
これを行わなかったのは、突けば穴だらけであるし、だれでも十分に反省していること
でもあり、その非を十分に認めているので、いまさら突っ込んで船長らを鞭打つ必要が
ない。突けば会社側にも責任が及ぶことにもなる。」ということであろう。
 船社は徹底した事故調査に積極的ではないようだ。
 海難審判裁決や刑事の略式命令書の内容は、主として当事者の行動などに言及するば
かりだから、原因判断や再発防止に役立つ指針はいずれも菖蒲<あやめ>か杜若<かきつば
た>である。
 図1、2はコラム63<松山海上保安部管内の乗揚げ状況>に掲載したものの再掲で
ある。図1はは松山海上保安部のご協力を得て、平成5年に同部管内における乗揚げ地点と乗
揚げ時の船首方向を示している。
 調査期間は昭和63年から平成4年末までである。野忽那島東岸への乗揚げは全てが
居眠りで、来島海峡航路を過ぎでからの気の緩みが居眠りを誘発するのだろう。 
 二神島南西端付近のそれは、伊予灘で居眠りし自動操舵のまま乗揚げに至っている。

 
 図2を見ていただこう。これも平成18年1月、再び松山海上保安部にお願いし、ご
提供頂いたデータをもとに纏めたものである。期間は平成13年から同17年末までの
5年間であるが、見てのとおり、乗揚げ場所は図1と大差がなく、14年前と同じよ
うな場所に乗揚げていることが一目瞭然である。
 原因も特殊な事例は例外で、長年に亘って同じような原因で結果が発生し、場所も大
差がないということは、海難防止活動の効果が挙がっていないことを如実に物語ってい
るといって過言ではあるまい。
 これは、再発防止対策が、人間行動の範疇にのみ言及する、いわゆる精神論に終始し
ている所以だと思っている。


 乗揚げを防止しようとすれば、ソフトの面では、乗組員に対する教育指導を徹底して
行なえばいいが、それだけでなく、ハード面での対策も欠かせない。
 上の2枚の図に記載されている乗揚げについて詳細にシュミレーションを行ったとこ
ろ、その大多数がレーダーの有効利用を行うことによって、確実に防止できたに違いな
いとの結果を得ている。
 具体的には、殆どが自動操舵で原針路、原速力のままの乗揚げだから、話は簡単であ
り、レーダーの接近警報(Guard zone,略<GZ>)を利用することで乗揚げを劇的に減
少させることができるということだ。
 次図は春一番U世号のレーダーにGZを設定した例だ。
 昼夜を問わずレーダーを作動させGZを正船首方向左右5度程度、距離0.25から
0.5海里、GZの前後幅0.1から0.2海里に設定しておけば図1,2の殆ど(浅
所への乗揚げを除く。)が防止できたことは明らかである。
 この場合、警報はレーダーの内部ブザーが鳴るが、眠りこけている当直者を目覚めさ
せるには音量が不足である。
 インターフエイスを介して外付けの大音量ブザイーやサイレンを鳴らすようにしたほ
うがいい。費用は1万円以下で済むだろう。
 このGZの設定は殆どのレーダーで簡単な操作で可能だが、乗組員が操作できるかど
うか船主は確かめ、航行中は必ず設定するように教育すべきだ。
 このように既存のレーダー機能を活用することで無様な海難を防止することができる。
 行政も、このような発想の転換をすべきではなかろうかと思っている。
 ただ、レーダーのみでは浅所の乗揚げを防ぐのは難しい。筆者はGPS利用の乗揚げ
防止援助装置を自前で構築しているので紹介しよう。
 図5はパソコンの画面に表示した海図である。海図を購入してスキャナーにかけ、
95DPIの解像度で16色のJpgフアイルを作る。
 GPSセンサーは1万円程度のものでいい。これをパソコンをつなぐ。
 プログラムを組んでGPSの報時信号、位置、進路、速力情報を画面の海図上に表示
させる。著作権の問題があるから、購入した海図を画像フアイル(パソコン用図)にし
ても、他人に使用させてはならないことに注意する。パソコン用図は、あくまで海図購
入者個人の責任での使用に限るということで、購入海図とパソコン図は1対1でなくて
はならない。2隻分なら2枚の海図を購入するということになる。
 図のように、危険範囲や、変針点などを色分けする。そして、常時船位が表示されて
いる画面の色を読み込む。
 例えば、赤の色を検出したら「危険圏に侵入した。!」と音声で知らせるようにする。
 変針点や通報地点、航路離脱警報などは別の色で設定しておけばいい。
 これらの塗色はあらかじめ塗っておくことも、航行中にその都度追加して塗ることもで
きるようにしている。
 これはノートパソコンレベルで安価、且つ容易に構築できるし、レーダーのGZを使
用する必要もない。

 東京海上日動火災保険株式会社コマーシャル損害部は損害防止(Loss prevention)に積
極的に取り組んでいる。
 先月には同社愛媛海損サービス課の渡辺、八木の両氏が春一番U世号にやってきた。
 海に出て実際にレーダーのGZの設定方法を習得し、パソコンによる乗揚げ防止のシステム
を理解した。「船では何故、こんな簡単なレーダーの活用をしないのだろう。」とぼやき、
是非とも顧客にGZの使用を提案したいといいながら帰って行った。


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