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コラム136 船員災害防止活動の泣きどころ |
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宇部興産海運(株)はセメント関係輸送の大手で船舶部には環境安全室があり、しばし
ば訪船して労働環境の保守・整備や労働安全衛生の確保に指導的な役割を果たし実効を
挙げている。
同社所属船は航行中、停泊中を問わず乗組員は船内整備作業を行っているが、作業前
には図のように作業員全員が船橋に集まり、必ずホワイトボードを使って綿密な事前打
ち合わせを行ってから作業を始める。作業中は確実に保護具を着用し、作業責任者は腕
章をつけ作業中は作業の進行状況の安全を確認している。作業を終えると、再び会合を
持ち、当日の作業において不安全な状況がなかったか、作業は手抜きされず手順に従っ
て行われたかのなどについて反省会を催している。これは東京海上日動火災保険(株)
の海損サービス課・営業課員とともに同社のセメントタンカーに乗船航海し、安全運航
診断サービスを行った際の見聞である。
しかし、このように全社を挙げて熱心に労働安全衛生の確保に取組んでいる船社は例
外的存在であろう。
船員労働災害千人率は陸上産業に比べて格段に多いが、これは主として船員の労働
環境が極めて苛酷なこともその一因である。
動揺、震動、ときには機関の排気ガスが居住区に充満する環境、船内での移動は上り
下りの連続である。ある大型自動車運搬船の一等航海士の停泊中における荷役作業1昼
夜の歩数を計測すると15,000歩であった。1歩を50センチメートルとするなら一
日7.5キロメートルを歩いたことになるが、車輌甲板を上から下まで動き回っての歩数
であり、陸上における平坦地での動きと混同してもらっては困る。
前出のセメントタンカーは機関室ハンドル前から船橋まで93段の階段がある。階段の傾
斜角度はビル外壁に取り付けられた非常階段を想像すればいい。1階分の階段を11段と
すれば8階以上のビルの1階から屋上までに相当する。機関長らは、この階段を使用して
一日に何回も往復しているのだ。移動だけでも重労働だろう。
陸上の人達は乗船体験をし、このような乗組員の労働環境を身をもって知ってもらいたい
ものである。 |
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船員災害防止活動が行われて久しい。統計的には災害は減少しているが、船員労働
安全衛生規則の遵守状況は不満足の限りである。
その最たるものは、陸船間の通行の安全確保である。写真のように、僅かに踏さんがあ
るだけの板一枚を渡しているのはいい方で、全く歩みを使用していない船は多いもので
ある。特に小型タンカーが製油所の桟橋に係留中、歩み板を使用して通行の安全を確保
している船は殆どないといっていい。船員労働安全衛生規則は昭和39年(1964年)に施
行され、以来、42年以上経過しているというのに、陸船間の通行の安全確保はなおざりに
されたままである。船尾に立派な可動式歩板があるのに使用していない船も多い。
これが船員災害防止上、一番の問題点で泣きどころだと思っている。
次に指摘したいのは救命具の問題である。救命関係属具備品は法定品であり、乗組員
の関心が高いように思われるが、実態はそうでもない。救命浮環が手では取り外せない船
、これを固縛している船、膨張式救命筏の舷側のチエ−ンとハンドレールがシャックルで
連結されている船、ラフトにカバーがかけられ、且つ固縛されている船も多い。
船によっては自分の救命胴衣がどこ置いてあるか知らない船員もいた。 自己点火灯の
電池切れ、接触不良での不点灯状態も多々ある。自己発煙信号は昼間に救命浮環と連
結し、日没後は、自己発煙信号を取り外し、自己点火灯を連結する。これが手順どうりの
やりかたであるがほとんどの小型鋼船乗組員は無知である。
管系塗色や各標識についてもれなく施されている船も珍しい。某船は数年に亘って船
員労働安全衛生月間に各地の訪船指導班が乗船して訪船済みのシールを船橋に複数
貼付けているが、筆者が訪れ、くまなく点検したところ50箇所以上の不備があった。
訪船指導班は何を指導しているのだ。おそらくは統計調査員的に訪船して書類の点検
をしただけなのかもしれない。
安全担当者の職務の一つに、作業の安全に関する教育及び訓練に関することがある。
しかし、小型鋼船では、大多数の安全担当者が、船員労働安全衛生規則すら、精読した
ことがないというのが実態であって、この人たちに教育を担当させたり、訓練指導を行なえ
ということ自体、ナンセンスである。 ISMコード関連でも、船長が乗組員を教育し、記録を
残すことになっているが、教育内容が忽ち品切れとなり、いつしか、教育を行なうことなく、
作文作りにのみ腐心しているのが実情である。 安全・衛生担当者のために、分かりやす
い業務指針をビデオ化して配布してはどうだろう。 一般の内航船員は、ゆっくり読書する
閑がないし、読んだとしても、船橋当直中に読まれては困る。
消火器関係にも問題点がある。 有効期間のあるものについては、有効か否かを点検す
ることになるが、エフを取り付けるよりも、器体に直接油性マジックペンで書き込むことを、
筆者は奨めている。 また、置場につては、配置図のとおりで、差し支えないものの、実際
にその場所で有効利用ができるかどうかについても、検討するべきである。
例えば、無人状態の機関室配電盤から火災が発生したとしよう。消火器を持って機関室
に入るだろうが、機関室入口付近に設置されているものが泡沫消火器であったなら、感電
死のおそれがある。機関室出入口付近には粉末(ABC)あるいはCO2を設置しておくの
が合目的的なやり方であろう。消火といえば、車輌満載のカーデッキで出火した場合、車
輌甲板内の消火ホースを使っての消火が不可能に近いことは、案外知られていない。使
用できない理由は、高圧状態の消火ホースを直角に折り曲げることはできないからである。
満載状態の自動車運搬船の車両甲板火災はスプリンクラーや気体消化剤の散布でなければ
消化できないことがあるのを認識すべきだ。
災害発生統計から死亡災害を船種別にみると、漁船が最も多く、砂利採取運搬船でも多
発している。漁船の場合は漁具による跳ねられ、巻き込まれによる船上での死亡、海中転
落による溺死、波浪によって海に投げ出されての行方不明が、主な原因であるが、海難審
判庁が言渡した乗組員死傷事件を検索してみると、作業用救命具を着用していなかった
ことを原因と判示した事例が多い。
漁船乗組員の死傷災害を減少させることができれば、死亡千人率が陸上比率7倍ともい
われる船員の死亡災害は劇的に減少するだろう。 作業用救命衣は、漁ろうの邪魔になる
。自分だけは、そんなものは要らない。 例え着けていたとしても、厳寒の海では役に立た
ないなど、ためにする抗弁が聞かれる。しかし、前示裁決例を詳細検討してみると、確か
に作業用救命衣不着用と死亡との間には相当因果関係が認められるのであって、圧倒的
多数が救われるわけではないにしても、救命衣ないし、イマージョンスーツの着用を徹底さ
せることによって、多くの人命が救われるに違いないと思っている。 確実、有効、軽便、安
価な救命衣の開発を急ぎ、甲板作業中は着用を法令で義務付けるべきだろう。
砂利採取運搬船にあっては、荷役用クレーン運転台の周辺での死亡災害が目立ってい
る。 具体的には、クレーンが運転されているとき、同運転台の旋回範囲内に不用意に立
入ることでの、挟まれ、跳ね飛ばされに伴う死亡災害である。
甲板に旋回範囲内立入禁止の表示や、手摺を設けることなど、それなりに改善されつつ
あるが、そのような防護設備があっても、危険な行動にはしり、死傷が生じている現実であ
る。船員教育のみならず、対人接近警報を設置して、人が近寄ればクレーン運転者に注
意を促す装置を設置すべきであろう。如何様に注意を喚起したとしても、長い年月で見れ
ば、必ず犯すであろう人的ミスについては、ハード面でカバーすべきである。 このような防
護装置は、現在のセンサー技術によって、簡単、かつ安価に構築でき船主の経済的負担
は、たかが知れている。
筆者の経験からすると、船外との通行手段、標識関係、救命、安全な環境の整備のいず
れについても、砂利採取運搬船は一般内航船舶と比較して、不備な点が目立ち過ぎる。
この種の船舶に対する訪船指導実績は、殆ど無いに等しいのではなかろうか。
なぜ積極的に訪船しないのか。明らかに不備の目立つ船種こそ積極的に訪船し指導すべき
だろう。砂利採取運搬船に対する積極的な訪船指導こそ、重要で、当面の急務であるがなお
ざりにされていることは明らかだ。
船員災害防止協会への加入についても船主は積極的でないようだ。僅かな年間会費を惜し
み、社会の要請である労働災害の防止活動に消極的とは何事ぞ。訪船指導班に中小企業の船
社が参加するのは限られた地域だけのようである。
歩みの不使用を含め、訪船指導班(者)は乗組員を指導するだけではなく、不備な点を
船舶所有者に通報し、法令の遵守を促すと同時に、指摘点が改善されたかどうかについ
て追跡調査をすべきだ。 |
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