コラム130 百年一日の如し<昔の試験問題>

海技士の資格で一級海技士(航海)の試験は学科試験(筆記・口述)と身体検査である
が、筆記試験は、航海に関する科目、 運用に関する科目、法規に関する科目とそれに
英語に関する科目とあり、更に細目がある。
 現在の試験では海事法令集を試験で使用することができるし、科目別合格と称して4科
目の全てに合格しなくても、合格点に達した科目は次の試験で免除される仕組みだが、
昔は1科目でも不合格なら、他の科目が全て万点でも不合格となった。 現在は法令集を
持参できることもあり随分と合格し易く、楽になった感がする。
 海技試験は資格に応じて難易度は違うものの、過去5〜10年間に出題された問題から
そうそう逸脱するものではなく、時代毎に傾向もある。だから、その気で試験問題だけ入念
に学べば、容易に合格できる。だから海事関係出版社は問題集に力点を置く。海事法令
集、試験問題集といった類<たぐい>は出版社のドル函というわけだ。
 秋山真之は海軍兵学校を首席で押し通したが、卒業間際に郷土愛媛の後輩に大小試験問
題を全部くれてやった。そしていった。
 「試験問題などは、過去5年間の試験問題を通覧すれば、出そうな問題は大体見当が
つくもんだ。必要な問題は、どの教官でも大抵繰り返して出すもんだ。それと、平素から教
官の説明振りや、講義中の顔付きに気おつけていると、その教官の特性がわかるから、出
しそうな試験問題はほぼ推定ができるよ。」という逸話は知られた話だ。
 海技試験官でも、口述試験の出題には個性があるようで、いまどきは知らないが、昔は
受験手続きを代行する海事代理士が口述試験受験者から聞き取りをして、何某試験官は
こんな出題をするといった虎の巻を代理士事務所を訪れる受験者にサービスで配ったも
のである。 
 今を去る90年の昔、海技試験には、国語(作文、英文和訳を含む)、数学(算術、幾何、
三角、対数)といった科目があった。
 国語の例はこうだ。乙種一等運転士科(四級海技士(航海)相当)では「燃料石炭の積
み込みを頼む文」、「病気全快を報ずる文」、乙種船長(三級海技士(航海)相当)では、
「負傷船員見舞いの文」、甲種一等運転士科(二級海技士(航海)相当)では「運賃市状
を報告する文」、甲種船長(一級海技士(航海)相当)では「北大西洋航路において注意
すべき諸点を問合わす文」や「船員室を改良せんことを船主に請求する文」が出題され、
文章力が問われた。
 数学の出題には、面白いものがある。現在、水産高校では四級海技士(航海)の筆記試
験免除校が多いので、乙種一等運転士科の例を現代文にして二つ示そう。さて、今ごろ
の生徒はどうだろう。果たして合格点が取れるだろうか。
 「ある汽船の乗客の合計は310人である。一等船客と三等船客との和は254人、二等船
客と三等船客との和は285人である。各等級の船客数はそれぞれいくらか。」
 「10月1日正午にA港を出帆し6ノットで96時間後にB港に到着する予定であった。ところ
が、都合で翌日正午の出帆となった。予定到着時刻までにB港に必ず到着しなければな
らいとすれば、何ノットの速力で航行しなければならないか。」
 商船高専の学生は三級海技士(航海)の筆記免除だから、甲種二等運転士科の出題が
解けるだろうか。
 「速力15ノットの商船がA港を発した。その4時間後に巡洋艦は同港を発し、商船を追跡
した。巡洋艦が180海里航行したとき、商船は15海里前方であった。その後、巡洋艦が商
船に追いつくためには、あと何海里航行しなければならないか。」
 甲種船長科の数学(幾何)ではこんな出題があった。
 「四辺形ABCDの各辺AB、BC、CD、DAを順次にa,b,c,dとし、両対角線BD、CAを
それぞれy,x周囲は両対角線の和より大で、その2倍より小である。
 これを式で示すと、x+y<a+b+d<2(x+y)であるが、これを証明せよ。」といったもの
だ。

 航海術では当然のこと天測の出題もあった。「サムナー」法または「ニューナビゲーション
」法で解けというもので、次は甲種一等運転士科の出題である。
 「10月16日午前10時20分頃、北緯がおおよそ48度40分、おおよその東経は175度
45分である。この地において、時辰儀(クロノメータ)が10時32分42秒を指すとき太陽の
下辺高度を29度29分30秒に測った。その後、真針路南東に距離36海里を航行し、同日
午後、時辰儀2時1分12秒を指すとき、再び太陽の下辺高度27度15分40秒に測った。
六分儀の器差2分40秒+、眼高35フイート、時辰儀に遅速はない。
 前後両観測時の太陽の真方位及び後測時の経緯度を求めよ。ただし、「サムナー」法
によるときは太陽の真方位はABC表で算出せよ。」
 ニューナビゲーションとは現在の天測技法で、天測計算表を使用する修正差法である。
サムナー法やABC表については聞いたこともない人が多かろうし、現代では無用の長物
だ。 これは大正6年12月の試験であるからおそらく1917年か1916年の海軍航海年表か
ら太陽の視位置を求めて計算することになる。
 
 昭和36年(1961年)の甲種一等航海士(現、二級海技士(航海)相当)の天測問題はこ
うだ。
 「10月18日午後9時0分頃、南緯18度38分、東経175度55分の推測地点で、クロノメー
タが10時11分53秒を示すとき、恒星アルタイル<Altair>の高度を37度10分に測定した。
これより真針路085度で14海里航走し、クロノメータが11時07分55秒を示すとき、恒星デ
ネブ<Deneb>の高度を13度14分に測定した。後測時の船位を求めよ。ただし、このクロ
ノメータの誤差は(+)0時21分15秒で、六分儀の器差はなく、眼高10mである。」

 このように50年以上を経過しても表、時には関数電卓を使用し作図で結果を求める出題
が続いている。しかし、これを1968年とし、このホームページで紹介している「究極の天測
技法」で解くと、推定位置不用で天体暦を使用せず即座に図のような結果を得る。
 天測計算関係は最早表ぐりの時代ではなかろう。実際に使いもしないことに多大な労力を費や
すのは試験のためだけであって時間の浪費で馬鹿げている。実務的にはコンピュータを使用すれ
ばいいし、天体観測による測位原理を訓え、原式から直接計算する技法を授けたので十分だ。


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